スピッツの音と詩
アルバムに未収録のシングルカップリング8曲と、他アーティストへの提供曲のセルフカバー、アマチュア(インディーズ)時代のアルバム「ヒバリのこころ」に収められていた2曲を収録。スピッツ自身は「スペシャルアルバム」「裏ベスト」と呼んでいるようだ。わたし的には「あまのじゃくアルバム」かな(笑)。
スピッツの歴史をタイムマシンに乗ってさかのぼって聴いているようなかんじ。いつもオリジナルアルバムを楽しみにしているわたしだけど、このアルバムを聴いて「フェイクファー」を聴いた時よりも確かに、スピッツの未来を信じてゆけると感じた。
「ベスト盤出すとさ、なんか〈終わっちゃった感〉が強くて……。勢いのあるアーティストでも、ないアーティストでも、ベスト盤を出すと、そこでひとつピリオドを打っちゃうような印象がどうしてもあって(略)ま、俺らがベスト盤出すとしたら、1曲目から売り上げ順に入っていくでしょう(笑)」(草野マサムネ 音楽と人 1999 5月号)
辺見えみりちゃんに提供した曲をスピッツがセルフカバーしたバージョン。聴けば聴くほどこころにしみ込んでくる言葉の群れは、変わらないスピッツを伝えてくれる。2番から転調して、もともと高いキィがさらに高くなり、サビにくるともう一気に涙に襲われるほどの高揚
♪僕にしか見えない地図を拡げて独りで見てた
♪流れ星 流れ星 すぐに消えちゃう君が好きで
こちらはパフィーに提供した曲。やはりはじめはパフィーのほうに親しんでいたので、これを聴いたとは「パフィーの音を遅回しにしたかんじ」に聴こえてしまった。でもアレンジからして全然ちがうので、その次からはまったくさらなスピッツの新曲として聴いてみてもおかしくないと感じた。
♪ヤワなハートが痺れるしびれる ここちよい針のシゲキ
理由もないのに輝く それだけが愛のしるし
♪嬉し泣きの宝物 何でもありそうな国で ただひとつ
19枚目のシングル「楓」のカップリングとして収められていた曲。アルバムを通して聴くととくにその力強さ+透明感が際立つ。成長したスピッツが感じられる一曲だ。
♪やたらマジメな夜 なぜだか泣きそうになるなる 幸せは途切れながらも 続くのです
14枚目「渚」のカップリング曲。Aメロが某CMソングに似てる、と思ったのはどうやらわたしだけだったみたい。まったく意味のなさそうな単語の羅列が、メロディーとくっつくと不思議なほど何か感じさせる。ダメだダメだ、このままじゃ。なにかをしなきゃ。
♪バッサリ切られて なんでそーなの 俺だけが 頭ハジけて 雲のベッドでフテ寝して
♪ありがちな覚悟は嘘だった 冷たい夕陽に照らされて のびる影
ギターの音が印象的。「ジャンクフーズ」が「ジャングルクルーズ」に聴こえた。「俺のすべて」なんてすごいタイトルつけるなぁ、と恐る恐るその歌詞を探ると、なんだか到底マサムネ君とは結びつきそうもない男性像が見えてくる。「俺の前世は・・・」と遠回しに自分を語るところもなんだかなぁ。「アバンチュール=冒険。また、冒険的な恋愛」そういう恋愛をしている人にも見えない。
♪消えかけたキズ かきむしるほど おろかな恋に溺れたら
♪燃えるような アバンチュール 足の指もさわぐ 真夏よりも暑く 淡い夢の中で
9枚目「青い車」と対。はじめはこの曲のほうがシングルA面候補だったという。アルバムの中で聴いてみても全く色褪せない永遠の名曲、というかんじがする。・・・なんてべた褒めだけど、「猫になりたい 君の腕の中」という甘えん坊な歌詞がはじめはちょっと苦手でした。ファンの間ではかなり人気のある曲。
♪からまわりしながら通りを駆け抜けて 砕けるその時は君の名前だけ呼ぶよ
♪猫になりたい 言葉ははかない 消えないようにキズつけてあげるよ
6枚目のシングル「裸のままで」のカップリング曲として聴いた時からすきな曲。心の中のわだかまりをすべて拭い去ってくれるような気がするから。よくよく考えると、これは未練の歌なのかもしれない。だけど、明るい。だからすき。
♪すすめ!まだまだ 明日をあきらめないで きっと どこかで 窓を開けて待ってる
♪銀河のシャワーを バベルのタワーで 吸い込め 涙のグローリー
力の抜けたけだるいかんじの歌い方が好きです。「サマービーチ・お魚・白い雲」リズムがすき。なんでこんなにキャッチーなのにカップリングなんだ?とか思ってた。サビ以外がちょっと淡々とし過ぎてるからかな?
♪優しくなった世界の真ん中で 君の胸に耳あてて聴いた音
♪すくすく育てばいつかは食べられる ぼやけたフルーツの夢
名曲(!)「日なたの窓に憧れて」のカップリング。疲れた時にこころを癒してくれそうな、やさしい曲。だけどさみしくてこれを聴くとこころをどこか遠くに持っていかれちゃったような気になる。持ってかれたい時はこれを聴く。
♪約束の海まで ボロボロのスポーツカー ひとりで行く クロールの午後
君の冷たい手を 暖めたあの日から 手に入れた浮力
遊佐未森さんに提供した曲。すごくキレイなはじまり方。全体にキャッチーだし、これ以上ないくらいのポップさにあふれてる。遊佐未森さんに提供したバージョンとは曲のアレンジはかなりちがうし、歌詞は「野良猫 サカリの頃の歌声も」というところが遊佐さんのバージョンでは「野良猫 祈りを込めた歌声も」となっているそうだ。パフィーの場合と同様に、まったくちがう曲として聴いても良さそうだ。
♪夜空にいつもの星が見えない ポケットに破れた地図をつめ込んで
♪いますぐ行くよ まわっているよ いますぐ行くよ 壊れた時計の力で
インディーズ時代にソノシートに収めて、手売りもしたという曲。3枚目「魔女旅に出る」のカップリングとして収める時は、カップリング曲と意識して録音したという。「ヒバリのこころ」と同じようにスピッツの原点とも言える曲、にもかかわらず、今となんら変わることのない鮮やかなメロディーセンスがある。これを聴くとへなちょこだった心の中に勇気がうまれる。
♪あぁ いつまで 君の身体にしがみついたまま きっと明日は僕らは空になる
♪こんな僕にだって 僕にだって 誇れるものがある
「おっぱい」「トゲトゲの木」この2曲をこんなにクリアな音で聴ける日がまさか来るなんて。この2曲が入ったインディーズ時代のミニアルバム『ヒバリのこころ』は、当時限定2000枚で余っていたくらいだったそうだけど、今は10万円代で取り引きされてるんだそうだ。当時のスピッツが知ったらひっくり返っちゃいそうだな。
♪もうこれ以上の 生きることの喜びなんか要らない 明日もここで君と会えたらいいな
ここのメロディーがすき。
大学2年の夏、わたしが沖縄に行った時、始終この歌が頭を回っていた。この曲を沖縄の「絵」にあてはめたくて映画まで撮ってしまった。そしてこれを聴くたびに、沖縄の青い空の下にいる自分を思い出させる。「プーリラヒーリラ」なんていう擬態語(?)も妙にのんきで、そこにゆったりと流れる時間を感じる。
♪歩き出した心 くねくねでいいな
♪すぐに分けてあげたいな とどめのプレゼント 箱あけてみなよ 恐くなんかないよ
♪入道雲のタメ息がとどく前の
♪だけど僕がまばたきを したその瞬間に もう目の前から 君は消えていた
ここのメロディーも最高。