スピッツの刺激

その6:RECYCLE と花鳥風月にみるベスト盤考

スピッツのベストアルバム『RECYCLE』が発売されて4ヶ月になる。売れ行きは200万枚を超える勢いだと言われている。一方、昨年3月に発売された、スペシャルアルバム『花鳥風月』こちらの売れ行きは40万枚そこそこだという。

『RECYCLE』には『君が思い出になるまでに』から最新シングルの『楓』までの作品がすべてシングルバージョンで収められた、いわゆる「ベスト盤」である。メンバーはこういったベスト盤の発売には以前から反対の意志を持っていた。其れ故、スペシャルアルバムという形で文字どおりそれの裏をかいたアルバムを出したのだ。

そして『花鳥風月』はアルバム未収録のシングルカップリング曲と、他アーティストへの提供曲、インディーズ期の名曲2曲を収めたアルバムとなっている。こちらは、メンバーのベスト盤へのこだわりと、インディーズ時代の作品も聴きたいというファンの要望を合わせた形で生まれたアルバムであると言える。

では何故、メンバーの意志に反した形で発売された『RECYCLE』が、メンバーやファンの気持ちがある意味通じ合ったと言える形で発売された『花鳥風月』の売り上げを上回っているのだろうか。

やはり、CDを買う層(10代〜30代が多いと考える)の人はまんまと「ベスト盤」の名前に騙されてしまっているのだと思う。決して悪い意味でいうのではなく、「ベスト」という名の元にある、「安心感」のようなものに浸ってしまっているのではないだろうか。“「ベスト」ならヒットしたシングルが全部入っているから安心だ”、というような気持ちがあるのではないのかな。

わたしは今まで「ベスト盤」の概念を次のように定義してきた。「名前やそのアーティストのある曲を聴いて、興味を持ったけれど、“まず手始めにどのアルバムを聴いたらよいかわからない。そのアーティストを知るために、どれを聴くべきか”という迷いを持ったときに選ぶとよい、そのアーティストのイントロ的なアルバム」

スピッツはこれに当てはまるのだろうか。ここ最近「ベスト」というアルバムを出すアーティストの多くは、それ以前にシングルをある程度の枚数売り上げていて、知名度もあるという人ではないだろうか。そして買う側。先ほども述べたように、こちらも「このアーティストの曲なら知っていないと話にならない。カラオケで歌えないとかっこつかない」というような理由でそういった「ベスト」に手を出している人が多いのではないだろうか。

スピッツの場合「以前にシングルをある程度の枚数売り上げていて」というのにはかっちりとははまらないだろう。それでも『RECYCLE』が200万枚以上売れている(スピッツのアルバム史上最高)というのはある意味驚きでもある。しかし、その3倍,4倍も売れているベスト盤などを見るにつけ、やはり先にあげたような法則にあてはまるアーティストの名前ばかりが目につく。

ベスト盤の定義として、あるいは、「ある期間を過ぎてそのアーティストの経歴を振り返る為に出されるヒストリー的なアルバム」というのもある。ユーミンやドリカムなど、ある程度の歴史を積んだアーティストの出す集大成的なアルバム、それが今までのベスト盤の大方な定義ではなかっただろうか。

まとまりがなくなってきてしまったけれど、お金のない学生たち、学生でなくても不況に頭をいためる音楽好きの人々には有り難い“ベスト盤”なのかもしれない。難しいやつだね、ベストってやつは。

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